HAP40は、耐摩耗性・靭性に優れる高速度工具鋼(粉末ハイス)で、
順送金型のパンチや高荷重部品に多く使用されています。
一方で加工性が悪く、特にマシニング加工では刃物寿命が短いなど、
現場では条件出しに苦労する材料としても知られています。
本記事では、実際の加工現場の経験を交えながら、
HAP40の特性・用途・加工の注意点をわかりやすく解説します。
HAP40とは?(基礎知識)
HAP40は日立金属(現:プロテリアル)の高速度工具鋼で、
「粉末ハイス(PM鋼)」と呼ばれる種類の材料です。
- 高い耐摩耗性
- 高い靭性で欠けにくい
- 熱に強く、寸法の安定性が高い
- 高荷重のパンチ・刃物に適している
SKH51 や SKD11 より高い性能を持ち、特に
「生産量が多い」「加工ストレスが高い」
金型で採用される傾向があります。
HAP40の特性(メリット)
HAP40の主なメリットは次の通りです。
- 耐摩耗性が非常に高い:パンチの摩耗寿命が長い
- 靭性が高く欠けにくい:チッピングが起きにくい
- 寸法変化が少ない:熱処理後の狂いが少ない
- 高荷重工程に強い:ステンレス・高強度材にも対応
金型での用途とメリット
HAP40は主に下記のような用途で使われます。
- 順送金型のパンチ
- 高張力鋼の抜きパンチ
- 摩耗の激しいダイ部品
- 反り・欠けが発生しやすい工程の部品
横山製作所では、HAP40は
「通常材では摩耗が早い高ストレス工程」
「長寿命化したいパンチ」
に非常に効果があり、結果として
段取り回数の削減・保全コスト削減
に繋がっています。

工具寿命・発熱管理が品質に直結します。HAP40のような難削材では、工具条件・
切り込み量・送り速度を細かく最適化し、高精度な仕上げを実現しています。
HAP40の弱点(デメリット)
HAP40は性能が高い反面、
加工性が非常に悪い材料です。
現場の正直な感想としては「条件が合うまで苦労する材料」です。
- 刃物の摩耗が激しい(寿命が短い)
- 深穴加工でドリルが折れやすい
- ビビりが出やすい
- 切削熱がこもりやすく焼き付きが発生しやすい
- 仕上げエンドミルがすぐ傷む
HAP40の加工ポイント(現場の実体験)
1. 深穴加工は段階的に条件を変える
HAP40は深穴加工でドリル折れが頻発します。
当社では複数段階で送り量を調整し、必要に応じて
ピーニング(小刻み切削)で熱逃がしを行っています。
2. 切削速度は低め・切り込み少なめが基本
高硬度材のため、切削速度を落とし、
切り込みを浅く設定することで工具の持ちが改善します。
3. 工具はコーティング必須
特に小径ドリルや仕上げエンドミルは、
耐摩耗コーティングの有無で寿命が大きく変わります。
4. 仕上げは一発で決めない
荒 → 中仕上げ → 仕上げ の工程分割が必要です。
HAP40は反発力が高く、一度に仕上げようとすると刃先が欠けます。
5. 切削油を十分に供給
HAP40は熱がこもるとすぐに刃物が焼き付きます。
切削油の供給量が品質に直結します。
FAQ(よくある質問)
Q1. SKD11やSKH51と比べてどう違う?
耐摩耗性はSKD11より大きく、靭性はSKH51より高い材料です。
高荷重工程ではHAP40が最も安定します。
Q2. どんなパンチに向いていますか?
摩耗が激しい抜きパンチ・曲げパンチなどに最適です。
Q3. 加工コストは上がりますか?
はい。加工時間・工具費は増えますが、
寿命が大幅に延びるためトータルではコストメリットがあります。
まとめ
HAP40は高い耐摩耗性と靭性を持つ優れた材料であり、
順送金型のパンチや高荷重部品に最適です。
一方で加工性は悪く、条件出しには経験が求められます。
当社では現場での試験加工を重ねることで、
高寿命・高精度の金型部品を提供しています。
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