ハイテン材(SPFH590・JAC780Y)の順送プレス成形品。反り・割れ・スプリングバック対策を施した製品外観

ハイテン材(590〜780材)の成形トラブルはなぜ起きる?|現場で蓄積した順送プレスの安定化ポイント

ハイテン材(590〜780材)順送プレス部品の外観

1. はじめに:ハイテン材は「なぜ難しい」のか

SPFH590、JAC780Yなどのハイテン材(高張力鋼板)は、自動車業界を中心に採用が増えています。
しかし加工現場では「割れる」「戻る」「平面度が出ない」など、トラブルも多い材料です。

当社でもハイテン材を扱う案件で課題が出ることはありますが、原因整理と工程設計の見直しで量産安定化のパターンが蓄積されています。
本コラムでは、その現場知見をもとにハイテン材の成形を安定させるポイントを解説します。

2. ハイテン材で実際に起きやすいトラブル

  • 割れ:曲げ起点、切欠き周辺で微小クラックが出る。
  • スプリングバック:想定以上の戻りで角度・幅が安定しない。
  • 反り・平面度不良:残留応力が大きく、うねりが出やすい。
  • 抜き品質の悪化:バリやせん断面の乱れが起きやすい。
  • 条件出しが長い:押さえ圧・潤滑・クリアランスの調整に時間がかかる。

3. トラブルの根本原因(材料特性から読み解く)

  • 降伏点が高い:変形が入りにくく、その反動で戻りも大きい。
  • 伸びが少ない:局所伸びで割れが出やすい(特に小R・切欠き)。
  • 板厚ムラの影響が顕著:ロット差が形状精度に出やすい。
  • 負荷集中が起きやすい:一工程に負荷を集めると割れ・反りが一気に出る。

4. 成形を安定させるための工程設計の考え方

4-1. 変形を“分散”させる工程割り

ハイテン材は一気に曲げるほど割れや戻りが増えます。
予備曲げ → 本曲げ → 仕上げ のように工程を細分化することで負荷が分散し、寸法の再現性が向上します。

4-2. 押さえ力のゾーニング

押さえ圧の強弱を部位ごとに変えるなど、材料の流れを制御することが反り・歪みの改善に直結します。

4-3. ブランク形状の微補正

ブランク外形を数十〜数百ミクロン単位で補正するだけで、応力の偏りが減り、割れ・反りが大きく改善されるケースがあります。

4-4. 抜きと曲げの順序最適化

先に基準穴や基準面を形成し、工程を通じてその基準を維持することで、ピッチ精度や位置精度が安定します。

4-5. 搬送姿勢と基準の維持

ハイテン材は強いため、搬送時の“わずかなねじれ”が次工程に影響します。
パイロット位置・ストリップ支持構造・キャリア剛性などを工程全体で最適化することが重要です。

5. 立ち上げ時に効果が高かった条件出しのポイント

  • 潤滑条件の見直し:割れと反りの改善に直結。
  • クリアランスの微調整:抜き品質と寸法安定に効果大。
  • 押さえ位置・面圧の調整:波打ち・平面度改善に有効。
  • ステージ配分の変更:予備曲げ増加で割れと戻りのバランス改善。

6. よくある失敗例と回避策

  • 曲げRを小さくしすぎる:割れにつながるためR設計は慎重に。
  • 一工程で大きく曲げる:工程を細分化して負荷を分散。
  • 押さえ力を均一にしがち:ゾーニングで最適化する方が効果が大きい。
  • 後工程に頼る:矯正工程ではなく、工程内で精度を作り込むことが重要。

7. まとめ:ハイテン材は“事前設計”がすべてを決める

ハイテン材は難しい素材ですが、工程分割・押さえ分布・ブランク補正・搬送姿勢・順序設計を丁寧に積み重ねることで、
量産の安定性が大きく向上します。

横山製作所では、590〜780材をはじめとするハイテン材の順送プレス金型に多数の実績があり、
図面検討段階から量産まで一貫したサポートが可能です。

8. お問い合わせ

ハイテン材の順送プレス、割れ・戻り・反りなどの成形課題でお困りの際は、お気軽にご相談ください。