プレス部品の曲げ加工で「図面どおりの角度が出ない」「試作と量産で寸法が変わる」といったお悩みはありませんか。
日々の加工現場で蓄積してきた経験をもとに、スプリングバックの基本と対策の考え方を整理します。
具体的な寸法や条件ではなく「発注側・設計側が知っておくと得をするポイント」に絞って解説します。
1. スプリングバックとは?
スプリングバックとは、曲げ加工後に材料が元へ戻ろうとすることで、
狙った角度や寸法から外れてしまう現象を指します。
プレスでは、パンチやダイで設定した角度よりも、実際の製品角度が「立ってしまう」「寝てしまう」といった形で現れます。
これは材料の弾性が原因で、塑性変形で曲げた後も一部がバネのように戻ろうとするために発生します。
戻り量は、材質・板厚・曲げR・曲げ長さ・加工条件など、さまざまな要素の影響を受けます。
2. なぜ問題になるのか
スプリングバックの厄介な点は、図面公差に直接効いてしまうことです。
曲げ角度が数度ずれるだけで、穴位置や取付面との相対寸法が変わり、組立不良やガタ・干渉の原因になります。
また、試作は手戻りを掛けながら追い込めても、順送量産では
「同じ条件で何万ショット回しても寸法が安定する設計」が求められます。
そのため、単に角度を合わせるだけでなく、
ばらつきをどう抑えるかがスプリングバック対策では重要なポイントになります。
3. 材料別のスプリングバックの傾向
スプリングバックの大きさは、材質によって大きく変わります。
一般的には、引張強さが高いほど戻り量が大きい傾向があります。
- SPCCなどの軟鋼板:比較的戻りは小さく、角度管理もしやすい。
- SUS304CSPなどのバネ材:弾性が高く、戻り量が大きい。ピッチや穴位置への影響も顕著。
- ハイテン材:強度が高く、割れを避けながら角度を出す必要があり、工程設計の難易度が上がる。
- アルミ材:戻りは中程度だが、傷・打痕への配慮が必要。
同じ形状でも材質を変更すると、戻り量が一気に変わることがあります。
材質変更の際は、事前に戻り傾向を把握したうえで金型側の対応を検討することが重要です。
4. スプリングバック対策の基本的な考え方
スプリングバック対策と言うと「オーバーベンド(少し余分に曲げる)」をイメージされる方が多いと思います。
これは有効な手法ですが、それだけでは限界があり、
「負荷をどこでどう掛けるか」「どのタイミングで解放するか」という考え方が重要になります。
大まかには次の3つの視点で整理できます。
- ① 材料に掛かる応力を分散する:一度に曲げず、段階成形で少しずつ追い込む。
- ② 基準を早く作る:基準穴・基準面を早期に作成し、後工程でブレないようにする。
- ③ 計測とフィードバック:試作~量産初期で戻り量を把握し、金型側の補正量を決める。
これらは機密情報ではなく、あくまで一般論ですが、
現場ではこの基本を押さえているかどうかで、結果に大きな差が出ます。
5. 順送プレスでの主なアプローチ
順送金型では、複数工程をどう分割し、どの工程でどこまで曲げるかがスプリングバック対策のカギになります。

- 段階曲げ:一度で最終角度まで曲げず、数ステージに分けて角度を配分することで、材料への負荷と戻りばらつきを抑えます。
- オーバーベンド:戻り量を見込んで、金型側の角度を意図的に変えておく手法です。材質別に最適値を探る必要があります。
- コイニング:必要に応じて曲げ起点付近を軽く押し込むことで、局所的に塑性を増やし、戻りを安定させます。
- 多点位置決め:前後工程で部品が微妙に動かないよう、基準穴・基準ピンを適切に配置してピッチ精度を守ります。
これらをどう組み合わせるかは各社のノウハウ領域ですが、
発注側としては「段階成形」「基準設計」「フィードバック」を意識して相談いただくのがポイントです。
6. 設計段階で意識したいポイント
スプリングバック対策は、金型だけでなく図面段階からの配慮も重要です。
設計時に次のような点を意識していただくと、金型側の自由度が上がり、結果として品質と納期に効いてきます。
- 余裕のある公差設計:機能上問題のない範囲で、公差に余裕を持たせると量産安定性が高まります。
- 基準の取り方:穴基準・面基準の取り方で、累積誤差の出方が変わります。
- 材質情報を明確に:ハイテン材やバネ材の場合は、グレード・板厚を明確に共有していただくことが大切です。
- 試作ステップの確保:いきなり量産仕様ではなく、試作段階でスプリングバックを評価できる余地があると安全です。
「この形状は順送でいけるのか」「戻りが心配だが成形可能か」といったご相談は、図面段階から歓迎しています。
7. 現場でよくあるトラブルと改善例
現場でよく相談いただくのは、次のようなケースです。
- 試作では出ていた角度が、量産で徐々にずれてくる。
- 材料ロットが変わると戻り量が変化し、調整が増える。
- 曲げと穴位置が連動しており、片方を合わせるともう片方がずれる。
こうした場合、原因は一つではなく、「工程の負荷バランス」「基準の取り方」「計測方法」などが絡み合っています。
横山製作所では、工程内計測や試作段階でのトレンド把握を行い、
金型補正と運転条件の両面から再現性の高い条件づくりを行っています。
8. 横山製作所の対応スタンス
当社では、SUS304CSPのメインフレームやハイテン材のカーリング部品など、
スプリングバックの影響が大きい部品を多数手掛けています。
その現場経験から、
「図面段階から一緒にスプリングバックを考える」ことを大切にしています。
「この材質、この板厚、この形状なら、どの程度の戻りが想定されるか」
「順送化する場合、工程分割や基準はどう考えるべきか」
といった相談ベースから対応可能です。
金型設計・製作だけでなく、量産立ち上げまで見据えたご提案を心がけています。
9. FAQ(よくある質問)
Q1. スプリングバック量は事前に正確に計算できますか?
理論計算やCAEでの予測もありますが、実際には材料ロットや加工条件の影響も大きく、
試作・トライを通じた実測と金型補正の組み合わせが現実的です。
Q2. ハイテン材の曲げは順送では難しいでしょうか?
形状や板厚によりますが、工程分割やオーバーベンド量の設計次第で順送量産が可能なケースも多くあります。
まずは図面をお送りいただければ検討いたします。
Q3. スプリングバック対策でコストは上がりますか?
工程数が増える場合もありますが、量産中の調整工数や不良リスクを考えると、
トータルではコストメリットが出るケースが多いと感じています。
Q4. 既存金型の戻り改善だけ相談することはできますか?
可能です。現状の寸法データや不具合内容をお伺いしたうえで、改善の方向性をご提案します。
10. まとめ
スプリングバックは、プレス加工に付きものの現象ですが、
そのメカニズムと対策の考え方を整理しておくことで、量産トラブルを大きく減らすことができます。
本コラムでは、スプリングバックの基本原理から、材質別の傾向、
順送金型での対策ポイント、設計段階での注意点までを概観しました。
具体的な数値や角度は部品ごとに異なりますが、
「負荷分散」「基準設計」「計測とフィードバック」という視点を持っていただければ、
金型メーカーとの打ち合わせもスムーズになるはずです。
お問い合わせ
ハイテン材・SUS材・SPCCなど、スプリングバックが気になる材料での順送プレスをご検討の際は、
図面段階からお気軽にご相談ください。
加工性検討・試作・金型設計・量産立ち上げまで、トータルでサポートいたします。