最長300mmの長尺ワークに対し、中央200mmの半円絞り、上面2カ所の絞り、そして側面の切り欠きが組み合わされており、材料流動が複雑になる構造でした。
成形時には「ひずみ」「平面度」「平行度」の乱れが起きやすく、試作~立上げにおいても調整ポイントが多い形状です。
ここでは、量産で安定した寸法と外観を実現するために行った、成形設計・条件最適化のポイントを整理します。
1. 製品概要
本PLATEは、SPCF-FD(冷間圧延鋼板)t1.0 を使用した長尺部品です。
複合的な絞り形状を有し、寸法精度と面精度の両立が求められました。
| 材質 | SPCF-FD(冷間圧延鋼板) |
| 板厚 | t = 1.0 mm |
| 最大寸法 | 最長300 mm |
| 主な形状 | 半円絞り(約φ200)/上面2カ所の絞り/側面切り欠き |
| 重点管理項目 | ひずみ・平面度・平行度・輪郭精度 |
特に側面切り欠きは、後工程の組付け精度に直結する重要寸法であり、
成形中の微小歪みが最終形状に影響する点を注視する必要がありました。
2. 加工課題
複合形状ゆえ、以下のような成形課題が発生しました。
- 半円絞りの大変形:板厚減少や耳波の発生により、面精度が乱れやすい。
- 上面2カ所の絞り:局所伸びによる反り増加、平行度の悪化。
- 側面切り欠きの精度:抜き・成形後の微小歪みが輪郭精度に影響。
- 長尺搬送の姿勢変化:300mm級ワークは搬送中のたわみ・ねじれが起こりやすい。
3. 解決策
3-1. パッド面圧とブランク形状の補正
半円絞りと上面絞りが干渉し合わないよう、パッド面圧をゾーンごとに調整。
切り欠き周辺の引張応力を緩和するため、ブランク外形に微小補正を加え、
しわ・割れ・耳波の発生を抑制しました。
3-2. 二次変形の相殺設計
上面絞りで生じる反り方向を事前に把握し、金型面に“逆補正”を付与。
成形後の残留応力を相殺し、平面度・平行度が収束するよう設計しました。
3-3. 搬送時の姿勢安定化
長尺ワークは搬送時のたわみが寸法ばらつきの原因になります。
ストリップサポートの最適化やパイロットピン位置の調整により、搬送姿勢を安定化し、
工程間での誤差拡大を防ぎました。
3-4. 面精度モニタリングで短期安定化
立上げ段階では、平面度・反り量を計測。
データを基にパッド圧・押さえ条件を微修正し、短期間で安定量産条件へ到達させました。
4. 成果
- 平面度・平行度の安定化:大径絞り+上面絞りの干渉を抑制。
- ひずみ・反りの低減:切り欠き部を含め形状の変形を均一化。
- 量産再現性の向上:条件標準化により、再補正を最小限に。
- 品質と生産性の両立:複合絞り形状でも安定した高精度を確保。
5. FAQ(よくある質問)
Q1. 半円絞りで面が波打つ原因は?
材料流動の不均一が原因で、局所引張・圧縮差が生じるためです。パッド面圧のゾーン調整とブランク補正で抑制します。
Q2. 上面絞りで反りが増す理由は?
局所伸びにより上下面の応力バランスが崩れるためです。金型に微小な逆補正を加えて改善します。
Q3. 切り欠き精度はどう確保していますか?
抜き形状の補正と押さえ圧の配分最適化により、周辺応力を分散し寸法再現性を確保します。
Q4. 長尺ワークでも精度を維持できる理由は?
搬送時の姿勢変化を抑える支持構造とパイロットピン位置調整により、工程間での誤差拡大を防いでいます。
Q5. 類似の複合絞り製品にも応用できますか?
はい。SPCF-FDをはじめ、冷間圧延鋼板の深絞り・複合絞り部品にも展開可能です。
6. まとめ
SPCF-FD(t1.0)PLATEでは、半円絞り(200mm)、上面2カ所の絞り、側面切り欠きという複合構造の中で、
ひずみ・平面度・平行度といった重要寸法の安定化を実現しました。
パッド圧・ブランク補正、二次変形の相殺設計、搬送姿勢の安定化、面精度モニタリングを組み合わせることで、
量産域での高精度と再現性を両立しています。
7. お問い合わせ
SPCF-FD・複合絞り・PLATE部品の成形に関するご相談はお気軽にお問い合わせください。
図面段階での加工性検討から、試作・量産立ち上げまで対応しています。