ワイヤーカット4周加工で仕上げたHAP40製の櫛歯状部品

ワイヤーカットの4周加工とは?薄板・精密部品で精度を出す方法

ワイヤーカット放電加工には、同じ輪郭を1回で切り落とすのではなく、複数回なぞって少しずつ寸法を詰めていく「多数回カット」という考え方があります。当社では精度が求められる部品に対して、周回を4回に分ける4周加工を行っています。

この記事では、なぜ周回を分けると精度が上がるのか、4周加工の対象になるのはどのような部品なのかを、実際の加工品の写真とあわせて解説します。

ワイヤーカット4周加工で仕上げたHAP40製の櫛歯状部品
ワイヤーカット4周加工で仕上げたHAP40製の部品。細い歯が等間隔で並ぶ形状は、1周の加工では精度が出ない

ワイヤーカット放電加工のしくみ

ワイヤーカット放電加工は、細いワイヤー電極と加工物の間に放電を起こし、材料を少しずつ溶かして切り進める加工方法です。糸のこぎりのように輪郭をなぞって形状を切り出しますが、工具が材料に物理的に触れないことが大きな特徴です。

刃物で削る加工では、材料が硬いほど工具が摩耗し、加工そのものが成り立たなくなっていきます。放電加工は電気で溶かすため、材料の硬さに関わらず加工できます。焼入れ後の工具鋼や粉末ハイス、切削では歯が立たない超硬合金まで、金型部品に使われる高硬度材の形状加工を支えているのがこの加工方法です。

なぜ周回を分けると精度が上がるのか

ワイヤーカットで高い精度を出すときは、同じ輪郭を複数回なぞります。1周目は放電のエネルギーを大きくして素早く切り落とし、2周目以降は条件を弱めながら輪郭を整えていくという考え方です。1周で仕上げようとすると、放電の跡が残り、寸法も安定しません。

周回を重ねるほど1回あたりの取り代は小さくなり、形状は設計値に近づいていきます。荒取りと仕上げを分けるという意味では、切削や研削と同じ発想です。その代わり加工時間は周回数に応じて増えるため、どこまで周回を重ねるかは要求精度との兼ね合いで決まります。すべての部品を4周で加工するわけではなく、要求精度に対して必要な周回数を図面ごとに判断します。

4周加工を行うのはどんな部品か

当社で4周加工まで行うのは、高い寸法精度が求められる精密金型部品や、板厚t0.2mm以下の薄板製品を加工するための金型部品などです。

ワイヤーカットでは、複数回に分けて仕上げ加工を行うことで、寸法を狙い値へ近づけながら加工面も整えていきます。

特に薄板製品を加工する金型部品では、クリアランスや刃先寸法のわずかな差が製品品質に影響しやすいため、金型部品側に高い加工精度が求められます。

そのため当社では、要求精度や金型部品の用途に応じて加工回数を設定し、必要な場合には4周加工まで行っています。

4周加工で仕上げたHAP40製部品の櫛歯形状の拡大。歯の間隔と側面の直進性が揃っている
櫛歯部分の拡大。細い歯が等間隔で並び、側面が揃っていることが精度の目安になる

上の写真のような櫛歯形状は、1本1本の歯の幅と間隔が揃っていなければ機能しません。歯が細くなるほど加工中に逃げやすく、周回を分けて少しずつ寸法を詰めていく必要があります。

当社ではワイヤ放電加工機を5台保有し、複数の部品を同時並行で進める体制をとっています。設備の詳細は設備一覧をご覧ください。

超硬に限らず、ハイスなどの工具鋼でも行う

4周加工は特定の材質のための技術ではありません。冒頭と上の写真の部品は、粉末ハイスのHAP40で製作したものです。材質によって放電の条件は変わりますが、「周回を分けて精度を詰める」という考え方は、工具鋼でも超硬合金でも共通です。

材質ごとの位置づけを整理すると、次のようになります。

どの材質を選ぶかは、プレスする製品の素材・成形時の負荷・生産台数から判断します。材質選定の考え方は金型パンチ・ダイの材質はどう選ぶ?|使い分けの基準で整理しています。

4周加工の部品を依頼するときのポイント

薄板・精密部品の見積り・製作をご依頼いただく際、次の情報があると検討がスムーズです。

  • 板厚と形状:特に薄い部分・細い部分の寸法。t0.2mm以下の薄板製品を加工する金型部品かどうかで周回数の判断が変わります
  • 要求精度:全面に高精度が必要なのか、機能上重要な一部分だけなのか
  • 材質の指定有無:指定がない場合は、用途をうかがったうえで材質からご提案します
  • 数量と納期:周回数は、必要な精度と時間のバランスで決まります

当社の金型部品加工では、寸法精度±0.003mmまでの加工に対応しています。対応材質・加工内容の全体は金型部品加工のページをご覧ください。

よくあるご質問

必ず4周加工をするのですか?

いいえ。4周加工を行うのは、高い寸法精度が求められる精密金型部品や、板厚t0.2mm以下の薄板製品を加工するための金型部品など、精度確保のために必要な場合です。周回数を増やせば加工時間も増えるため、要求精度や金型部品の用途に応じて加工回数を設定し、必要な場合に4周加工まで行っています。図面を拝見したうえで、必要な周回数を判断します。

周回数が増えると納期はどのくらい変わりますか?

加工時間は周回数に応じて増えますが、増え方は形状・板厚・材質によって変わります。具体的な図面をもとにご回答しますので、納期の制約がある場合はあわせてお知らせください。

どんな材質に対応していますか?

SKD11・SKH51・HAP40といった工具鋼のほか、超硬合金、焼入れ鋼(HRC50〜65)に対応しています。材質ごとの対応範囲は金型部品加工のページにまとめています。

金型部品以外の薄板部品も加工できますか?

形状と材質によりますが、対応できる場合があります。当社はプレス金型の設計・製作が本業のため、金型部品で培った精度管理をそのまま単品部品に適用できます。まずは図面をご提示ください。

まとめ

ワイヤーカットの4周加工は、時間をかけてでも取り代を細かく分け、寸法を安定させるための加工方法です。

  • ワイヤーカット放電加工は材料の硬さに関わらず輪郭を切り出せる。高硬度材の形状加工の中心となる方法
  • 1周目で素早く切り落とし、2周目以降は条件を弱めながら輪郭を整える。周回を重ねるほど形状は設計値に近づく
  • 4周加工の対象は、高い寸法精度が求められる精密金型部品や、t0.2mm以下の薄板製品を加工するための金型部品。クリアランスや刃先寸法のわずかな差が製品品質に影響するため、金型部品側に高い加工精度が求められる
  • HAP40などの工具鋼でも超硬合金でも、周回を分けて精度を詰める考え方は共通
  • 加工回数は要求精度や金型部品の用途に応じて設定する。図面段階で要求精度の強弱を共有いただくと検討が速い

薄板・精密部品の図面をお持ちならご相談ください

ワイヤ放電加工機5台で、薄板・精密部品の加工に対応しています。「この板厚で精度が出るか知りたい」「どの材質にすべきか迷っている」といった段階でも構いません。図面をご提示いただければ、加工方法・実現可能な精度・工程をご回答します。

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