金型部品の素材となる鋼材ブロック。加工前の状態

DCMXとSKD11の違い|SLD-MAGICも含めた冷間ダイス鋼の選び方

金型部品の材質を「SKD11で」と指定されたとき、それが本当に最適な選択かどうか、迷った経験はないでしょうか。SKD11は冷間ダイス鋼の標準として広く使われていますが、その改良鋼であるDCMXやSLD-MAGICは、加工する側から見ると扱いやすさが大きく違います。

この記事では、順送プレス金型の部品にDCMXを最も多く使っている立場から、SKD11・DCMX・SLD-MAGICの3つの冷間ダイス鋼を「金型を使う側」と「部品を加工する側」の2つの視点で比べます。現場の実感を◎○△で整理した比較表と、材質を指定するときの考え方もあわせてまとめました。

金型部品の素材となる鋼材ブロック。加工前の状態
金型部品の素材となる鋼材ブロック。ここから荒加工・焼入れ・仕上げ加工を経て金型部品になる

SKD11・DCMX・SLD-MAGICはどんな材料か

3つはいずれも冷間ダイス鋼(常温でのプレス・打抜きに使う金型用の鋼)に分類されます。位置づけを先に整理します。

材料 位置づけ メーカー・規格
SKD11 冷間ダイス鋼の標準鋼種。高炭素・高クロムで耐摩耗性が高い JIS G 4404(合金工具鋼鋼材)
DCMX SKD11の弱点だった被削性・靭性を改良したマトリックス冷間ダイス鋼。高温焼戻しで最高62HRC 大同特殊鋼
SLD-MAGIC 耐摩耗性と靭性を兼ね備え、加工性にも配慮した高性能冷間ダイス鋼 プロテリアル(旧日立金属)

SKD11:標準だが、加工する側には負担が大きい

SKD11は炭素とクロムを多く含み、焼入れ後の硬さと耐摩耗性が高い材料です。長く使われてきたため、鋼材店の在庫が豊富で入手しやすく、材料費も改良鋼より抑えられます。一方で、切削加工では工具の摩耗が大きく、加工する側の負担は3つの中で最も重い材料です。

DCMX:加工性と金型性能を両立した改良鋼

DCMXは大同特殊鋼のマトリックス冷間ダイス鋼で、SKD11と比べてエンドミル・ドリルでの被削性と靭性を高めた材料です。約500℃の高温焼戻しで最高62HRCの硬さが得られ、そのときの焼入れ変寸が最も小さくなるとされています。当社で最も使用量が多い金型部品の材質で、材質選定の全体像は金型パンチ・ダイの材質はどう選ぶ?|使い分けの基準で解説しています。

SLD-MAGIC:高負荷成形向けの高性能鋼。ただし廃盤予定

SLD-MAGICはプロテリアルの冷間ダイス鋼で、ハイテン材などの高負荷成形用プレス金型を想定した材料です。耐摩耗性と靭性を兼ね備え、加工性にも優れます。ただし、2027年3月で廃盤となる予定のため、これから新規に金型を設計する場合は、長期的な予備品の供給まで考えると選びにくい材料になっています。

「製品の材料」と「金型部品の材料」は別の話この記事で扱うのは、パンチやダイなど金型部品側の材料です。プレスされる製品側の材料(SPCC・ステンレス・ハイテン材など)はお客様が指定するもので、当社が選ぶ立場にはありません。製品側の材料が金型に与える影響はハイテン材(590〜780材)の成形トラブルはなぜ起きる?で扱っています。

現場の実感で比べた3つの材料(比較表)

次の表は、当社の現場で日常的に加工している実感を◎○△で整理したものです。メーカーの公表値ではなく、あくまで加工する側の評価である点にご注意ください。

材料 加工しやすさ 切削工具の摩耗しにくさ 切削工具の欠けにくさ 材料費の安さ 入手しやすさ
SKD11
DCMX
SLD-MAGIC

表の「摩耗しにくさ」「欠けにくさ」は、切削工具で加工する際に工具が摩耗しにくいか・欠けにくいかを表しています。金型として使ったときの部品の耐摩耗性や欠けにくさではありません。金型としての寿命は、製品の材質・成形時の負荷・生産台数で変わるため、別の軸で判断します。

表から読み取れるのは、加工する側にとってDCMXが3項目とも◎で、SKD11が3項目とも△という明確な差です。反対に、材料費と入手しやすさではSKD11が有利で、DCMXは材料費が高く、入手のしやすさもSKD11には及びません。SLD-MAGICはすべて○で、突出した弱点がない代わりに、前述のとおり廃盤が予定されています。

加工する側から見た違い:切削・研削・焼入れ後

金型部品は、素材のブロックからマシニングで荒加工し、焼入れしてから研削やワイヤーカットで仕上げます。それぞれの工程で、材料の違いがどう表れるかを見ていきます。

焼入れ前に荒加工を終えた金型部品。マシニング加工で形状を作り、焼入れ後に研削・ワイヤーカットで仕上げる
焼入れ前の荒加工を終えた金型部品。この段階の切削で材料ごとの加工性の差が最もはっきり出る

切削加工:SKD11は条件と工具の工夫が要る

SKD11を指定されたときに加工する側が困るのは、加工性が悪く切削工具の摩耗が大きいことです。そのまま加工すると工具の交換頻度が上がり、寸法にも影響します。現場では、切削条件(回転数・送り・切り込み)の調整と、切削工具の選定を工夫することで対応しています。

DCMXは同じ形状でも工具の摩耗が少なく、欠けも起きにくいため、条件を安定させたまま加工を進められます。この差が、製作リードタイムと工具費の差として表れます。

研削加工:砥石の摩耗はDCMXが最も少ない

焼入れ後の研削では、3つの材料の中でDCMXの切削性が最も優れ、砥石の摩耗が少ないというのが現場の実感です。砥石の摩耗が少ないと、ドレス(砥石の目立て直し)の回数が減り、寸法の再現性も保ちやすくなります。研削工程で使っている設備は設備紹介ページに掲載しています。

ワイヤーカット・焼入れ後の仕上げ

形状の切り出しはワイヤーカット放電加工で行い、精密部品では4周加工で寸法を詰めます。工程の考え方はワイヤーカットの4周加工とは?薄板・精密部品で精度を出す方法で解説しています。焼入れ後の仕上げ工程まで含めて考えると、DCMXは切削・研削の両方で加工側の負担が軽く、当社が指定のない場合にDCMXを選ぶ理由もここにあります。

金型を使う側から見た材質の指定

お客様が材質を指定するのはどんな場合か

お客様から材質を指定されるのは、金型の耐久性を考慮している場合が多いと考えています。過去に使った材料で寿命の実績があれば、同じ材料を指定するのは自然な判断です。指定がない場合、当社ではDCMXを選んでいます。

ただし、材質だけで金型寿命が決まるわけではありません。金型寿命は、プレスする製品の材質・成形時の負荷・生産台数の組み合わせで決まります。生産台数が多い案件では、冷間ダイス鋼ではなくHAP40などの粉末ハイスや超硬を使うこともあります。HAP40についてはHAP40とは?特性・用途・加工の注意点を技術者が解説を、超硬部品については超硬金型部品の精密加工|欠けを防ぐ研削の要点をご覧ください。

納期の都合で材質の変更を提案することがある

鋼材店の在庫状況によっては、指定された材料の入手に時間がかかることがあります。納期の関係で、同じ冷間ダイス鋼の中で材質の変更を提案することがあります。SKD11は入手しやすさが◎で、DCMXは○という差があるため、納期が最優先の場合は指定と異なる材料をご提案する場合があります。

材質を変更する場合でも、金型としての要求(製品の形状・板厚・生産台数)を満たせるかを先に確認したうえで提案しています。金型部品の製作範囲は金型部品加工のページにまとめています。

材質の指定に迷ったらご相談ください

順送プレス金型の製作と、金型部品の製作・改造に対応しています。「SKD11で見積りを取ったが、DCMXに変えたらどうなるか知りたい」「SLD-MAGICの予備品を今後どうするか」といった相談から承ります。

お問い合わせはこちらお電話: 0256-92-6110

材質を決めるときの考え方

ここまでの内容を、材質を決める順番として整理します。

  1. 金型としての要求を確認する:プレスする製品の材質・板厚・形状と、想定する生産台数を確認する
  2. 冷間ダイス鋼で足りるかを判断する:生産台数が多い、負荷が大きい場合は粉末ハイスや超硬を検討する
  3. 冷間ダイス鋼の中で選ぶ:指定がなければDCMX。材料費・納期を優先する場合はSKD11も候補にする
  4. SLD-MAGICは新規採用を避ける:2027年3月の廃盤予定を踏まえ、予備品の供給まで考えて判断する

既存の金型でSLD-MAGICを使っている場合は、予備品をまとめて製作しておくか、次回の更新時にDCMXへ切り替えるかを早めに決めておくと安心です。順送金型の設計全体の考え方は技術・設計のページで紹介しています。

よくあるご質問

DCMXはSKD11の代わりにそのまま使えますか?

DCMXはSKD11の改良鋼として開発された材料で、同じ冷間ダイス鋼の用途に使えます。ただし、焼入れ・焼戻しの条件はSKD11と異なるため、熱処理はメーカーの推奨条件に従います。既存金型の予備品を作る場合は、相手部品との組み合わせも含めて確認します。

SKD11指定の金型部品の加工は断られますか?

断ることはありません。SKD11は切削工具の摩耗が大きい材料ですが、切削条件と工具の選定を工夫して加工しています。加工性の差はリードタイムや費用に影響する場合があるため、指定の理由をうかがったうえで、必要に応じて代替案もお伝えします。

SLD-MAGICの予備品は今後も作れますか?

2027年3月の廃盤予定以降は、材料の入手ができなくなる見込みです。入手できる間に予備品をまとめて製作するか、DCMXなどへの切り替えを検討することをお勧めします。

材料費はどのくらい違いますか?

材料費はサイズ・時期・鋼材店によって変わるため、この記事では◎○△の相対評価にとどめています。DCMXはSKD11より材料費が高い一方、切削工具の摩耗が少なく加工条件も安定するため、加工側の負担は軽くなります。部品としての価格は形状と数量で変わりますので、図面をいただければ個別に見積ります。

材質を変えると金型の精度は変わりますか?

材質そのものより、焼入れ後の変寸と仕上げ加工の精度が影響します。DCMXは高温焼戻し時の焼入れ変寸が小さいとされており、研削での寸法の追い込みもしやすい材料です。仕上げ精度の考え方は超硬金型部品の精密加工|欠けを防ぐ研削の要点もあわせてご覧ください。

まとめ

SKD11・DCMX・SLD-MAGICは同じ冷間ダイス鋼ですが、加工する側の負担と入手性が大きく異なります。

  • 加工しやすさ・切削工具の摩耗しにくさ・欠けにくさは、DCMXが◎、SKD11が△
  • 材料費と入手しやすさはSKD11が有利。納期優先で材質変更を提案することもある
  • 研削では3つの中でDCMXの切削性が最も良く、砥石の摩耗が少ない
  • 指定がなければDCMX。SLD-MAGICは2027年3月で廃盤予定のため新規採用は避ける
  • 金型寿命は材質だけでなく、製品の材質・負荷・生産台数で決まる

冷間ダイス鋼の金型部品は横山製作所にご相談ください

DCMXを中心に、SKD11・HAP40・超硬まで、金型部品の材質選定から加工・予備品製作まで対応しています。図面段階での加工性の検討や、材質変更の相談から承ります。

お問い合わせはこちらお電話: 0256-92-6110